第21〜23号より「コダーイ協会音楽セミナー体験記」
 
 1960年代に、羽仁協子さんを中心にハンガリーの音楽教育を日本に紹介し、コダーイの提唱する子供の遊戯うたによって始める音楽教育を日本ではどのように展開していくかという問題に取り組んできたグループが、コダーイ協会です。
 うたうことを中心にした教育なので合唱も重要な位置を占めてきます。おそらくこのようなものが日本に存在することすら知らない方が多いと思いますし、このシステムで音楽教育を受けてきた方等、ほとんどいらっしゃらないと思います。
 今回のセミナーについては、“ハーモニー”に載っていたのでご存知の方もあると思いますが、全国規模のセミナーで東京と地方を交代で年1回開催地を持ちまわり、地方で行われるときは長期大規模に行われるのを慣習にしているらしいということ、私も参加して初めて知りました。
 札幌で行われるのは、20年ぶりとかいうことで今回参加できたのは、とてもラッキーでした。というわけで地元札幌の学生や道内の学校の先生、合唱関係者が多く参加していると思いきや、佐賀や福岡、浦和等遠くから参加している方が多い位でビックリしました。
 OLだけどコダーイの作品バッハやルネサンスの作品が好きで、歌いたいのに、普通の合唱団では取り上げてもらえないので、このセミナーに毎年参加しているという人。主婦だけど子供を育てるのにコダーイシステムで育てたいと勉強している人。もちろん学校の先生や合唱をやっている人、保育講座等もあったので保育士さん等も参加していました。

 私が受けたのは、ソルフェージュ講座と、合唱・合唱指揮法の講座です。どちらもイゴー先生という大柄でユーモアがあり、非常にチャーミングな女性の先生につきました。
彼女は、リスト音楽院やバルトーク音楽院で教えているハンガリー人で様々な合唱団の指揮者としても活躍し、世界各国で、ワークショップ、セミナー等で講師として招かれている方です。
                            
【ソルフェージュ講座】

 わらべ歌から始まる音楽教育がどんな風に多様な音楽につながっていくのか、という長年の疑問を解消すべく、上級のコースを受けたのがまちがい(?)で、たった7〜8人の受講生の大半が、ハンガリーに留学経験ありと見られる若者か、20年も経験をつんだベテランで初体験の私は、ハンガリー語もピンとこないし、(通訳がつくのだけれど下手でまどろっこしい)レッスンのテンポは早いし、コダーイシステムについて多少の知識があるものの、体ですぐついていくのは大変。おまけに毎日大量の宿題を出す先生で、その宿題は、日々グレードアップし、毎日一人ずつ全ての課題が当たるという恐ろしいセミナーで、帰ってから勉強、朝起きてからまた勉強して学校に行くという日々。37.5度になるという日もあった暑い日の続く中、久々に学生になった気分でなまけ者の私も思わずしっかり勉強してしまいました。
純正調での二度のとり方の区別のしかた。ソルフェージュから楽曲分析にまで持っていく方法。和声の簡単なトレーニングのしかた。教会施法について。などなど、私にとっては得るところの多い講座でした。内容については極めて専門的になりますので、詳しく知りたい方、興味のある方は、個人的に聞いてください。

【合唱・合唱指揮法講座】

 事前に楽譜が渡されていたので、5日間のセミナーの間にイゴー先生の指揮で
1.Philip Hayes(1738〜1797)Halleluja(ハレルヤ)四声カノン
2.Giuseppe Tartini(1692〜1770)Stabat Mater(悲しみの聖母)女声三部
3.Liszt(1811〜1886)Ave verum(まことの身体)混声四部
4.Mendelssohn(1809〜1847)Veni Domine(来たれ主よ)女声三部
5.Bardas(1899〜1986)Cantemus!(歌え素晴らしきしらべを)混声四部
Szeged f?lol(セゲドゥのかなたより1,2,3)混声四部

受講生の指揮で
1.Gioranni Croce(1557〜1609)Ovos Omnes(道行く全ての人々よ)混声四部
2.Alessandro Constantini(1581〜1657)Confitemini Domini女声三部
3.Halmos(1909〜)Jubilate(主をほめたたえよ)混声四部
4.Kodaly(1882〜1967)Horatii Carmen(ホラティウスの歌)混声四部

以上の曲を全て仕上げることになります。
ほとんどラテン語だったのですが、全部ドイツ式の発音でした。イゴー先生は巨体をエネルギッシュに使いながら、ボリュームのあるコントラアルトの声を的確な指示と共に飛ばし、どんどん曲を仕上げようとします。それはパワフルで妥協を許さない指導の仕方でした。けれどいつも指揮者の位置にいる私としましては、合唱団の席で歌うのがこんなに楽で心地よいことだなんて今まで知らなかった位、楽しい経験でした。曲も良かったのだけれどやっぱり優れた指揮者のもとで歌うのは本当に気持ちのよいものですね。(ごめん…反省!!)

【サボー先生のレッスン】

 合唱指揮者として世界的に有名なサボー氏の名前はご存知の方もいらっしゃると思いますが、私が今回このセミナーに参加しようと決定した最大のポイントは、彼にありました。地元札幌の4つの合唱団(旭丘高校、真栄小学校、藻岩高校、レゾナンス・レ・ザミ)の公開レッスンは、指揮者に対するレッスンがほとんどで「ギャー!」

指揮者の立場からすると恐ろしいレッスンでしたが、聴く側から見ればなるほどということになるわけです。実際悪いところは全部指揮者のせいですものネ。声も音楽もタクト通りになってしまうということ、指揮法のレッスンでは、いつも認識することですが、今回もそれをいやというほど思い知らされました。しかし、注意の多くは基本的なことで基本的なことをキープできるということの難しさも改めて感じた次第です。

【私の中での問題点】

 近年“絶対音感”という本もベストセラーになったり、絶対音感に対する認識も市民権を得、それを得るためのトレーニング法も色々研究されてきています。しかし、コダーイシステムでは移動ド唱法を基にして、ソルミゼーションが行われ、指揮者も学校の先生も音叉を持って、音楽的な身体活動や、歌唱のほうも重視しています。現在日本では個定ド唱法が主流になっていますし、ソルミゼーションはその方が楽なので、私も長年個定ド唱法で音楽教育を行ってきました。絶対音感と移動ド唱法は相対するものではないと思いますが、それを身につける過程においては、一時的にはっきりと対極にあるものだと思います。どうやって絶対音感を身につけるチャンスを失わないで調整感覚も身につけられるか音楽的なるものとコダーイシステムのソルミゼーションの間にある重要な関係を今回は体験して、自分の立場をどうするか、考え直さなければならないなと思っています。