この合唱団にはドクターが2名います。その先生が投稿して下さった
名付けて「モツレク診察室」シリーズです。

新年号

濱田栄一さん(テナー・内科医)   「声帯ポリープと声帯結節」

 このコーナーでは音楽や声楽と関係の深いテーマを選んで、できるだけ皆さんのお役に立つようにしたいと思います。第1回は声帯ポリープと声帯結節についてお話しします。

 「声を使い過ぎたせいか声帯にポリープができちゃってね」なんて話を聞いたことがあると思いますが、この場合は声帯結節のことであってポリープとは全く別のものです。
 
 まず先に声帯の構造を説明しておきましょう。声帯は喉の奥で気管と食道に別れた直後の気管のすぐ上にあります。左右1枚づつ前後に水平に振動板があり、普段は呼吸のために弛緩して開いていますが、発声時には振動板が緊張して音を発します。緩い緊張で低音強い緊張で高音となります。男性は女性に比べて振動板が前後に長いのでより低音となります。バスの男性ほど喉仏が出ているのはこのためです。

 さて、まず声帯ポリープですがファイバースコープでのぞいてみると、どちらか一方の振動板に赤く丸い、いかにも「できもの」という感じの腫瘍が見え、診断は簡単です。原因は煙草による慢性の炎症が考えられ、事実、患者の殆どがヘビースモーカーです。
 これに対し声帯結節ですが、振動板の前方3分の1のあたりに両方対になって粟粒大の白い盛り上がりがあり、このため振動板の正常な動きが妨げられて嗄声(させい、声枯れのこと)となります。原因は振動板の異常な緊張の持続、すなわち無理な発声です。振動坂の前方3分の1のところは構造的に最も弱い場所なので常に強いカが加わることにより裂けたり切れたりし、それが治ってはまた切れ、と繰り返すうちに傷痕が盛り上がってくるのです。女性と子供に起こりやすく(振動板が短く、緊張しやすいので〉、女性教師、保母、大声で遊ぶ男児などにみられやすい。また、謡人結節とも言われ、歌手にも多いとされますが、この場合の歌手はオペラ歌手ではなく、民謡、浪曲、小唄、端唄など意識的に喉での発声をさせる人達です。したがって西洋音楽のベルカント唱法を行う歌手が「職業病」と自慢するわけには行きません。治療は発声の改善ですが、中等度以上はレーザーメスなどでの切除しかありません。しかし発声方を変えない限りは何度も繰り返すことになります。

 具体的にどのような発声が悪いのでしょうか。分かりやすい例で言うと明石家さんまです。「お前アホちゃうか、ええかげんにせえよ!」ほら、目に浮かぶでしょう。首に青筋を立てて喉から絞り出すような大きな声。いつもあんな声でしゃべられては声帯がたまったものではありません。では逆の例は?・・・例えば石坂浩二です。軟口蓋に響くゆったりとした声は声帯もリラックスしています。そしてどちらの声が音楽的でしょうか?改めて聞くまでもありませんよね。 

 さて、声帯のポリープと結節との違い、ご理解いただけましたでしょうか。我々も歌を志す合唱人の端くれとして、これらの病気とは一生無縁でいたいものですね。

                 
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